PROJECT STORY / 首都圏SLCプロジェクト

前例のない取り組み
「低温」かつ「無人化・省力化」を実現した
人に優しい次世代センター

INTRODUCTION / プロジェクト概要

KRSは食品物流のリーディングカンパニーとして、常に業界に先駆けてイノベーションを起こしてきた。ホストコンピュータ導入やロケーションシステムの開発、最大3つの温度帯を同時に運べるフレキシブル車両『FCD3+1』の開発など業界初の成果は数えきれない。2019年8月、埼玉県所沢市で本格稼働を開始した冷凍・冷蔵対応の物流拠点「首都圏SLC」もまた、食品物流業界で初となる無人化、省力化のモデルセンターとして大きな注目を浴びている。
首都圏SLCはふたつの大きな意義を持っている。ひとつは交通アクセスに優れた所沢にKRS最大の保管能力を有する冷凍・冷蔵拠点を置くことで、首都圏全域をカバーする効率的な物流ネットワークを構築したこと。そして、無人化・省力化を推し進めることで、労働人口の減少による人手不足を解消し、労働環境を大きく改善したこと。
しかし「低温」と「省力化・無人化」を兼ね備えた物流拠点の構築はこれまでに例がなく、その実現には多くの困難が待ち受けていた。

PROJECT MEMBER

  • 木作 智 KISAKU SATOSHI
    開発本部 運用支援部
    2006年入社
  • 冨山 芳明 TOMIYAMA YOSHIAKI
    首都圏SLC兼 所沢物流センター統括
    1995年入社
  • 加藤 利和 KATO TOSHIKAZU
    開発本部 運用支援部
    1991年入社
STORY/01

プロジェクト発足の経緯と、
プロジェクトにおけるそれぞれの役割を教えてください。

  • 加藤

    首都圏SLCの構想は2015年頃からありました。チルドや冷凍食品などの需要増加から、首都圏エリアの冷凍・冷蔵倉庫が不足しており、関東における低温物流拠点の機能拡大が求められているという背景がありました。また、物流業界は慢性的な人材不足に悩まされており、省人化と労働環境の改善も大きな課題になっています。そこで所沢市に大規模な冷凍・冷蔵拠点を構築し首都圏全域をカバーする最適物流体制を築くとともに、倉庫内作業の自動化・省力化を行い、女性や高齢者にも優しい物流拠点をつくろうと考えました。

  • 冨山

    当時は「Tプロジェクト」と呼んでいましたね、所沢の“T”。

  • 木作

    まだ計画は社内的にも伏せられていましたからね。基本構想がまとまり、2017年にプロジェクトが始動するのですが、特に変える必要もなかったので、その後もずっと「Tプロジェクト」と呼んでいました。

  • 加藤

    プロジェクトは大きく分けて社内調整、建物設計、設備設計、許認可申請、建物工事、設備工事、完工後の設備テスト、本番稼働開始という段階を踏むのですが、私が主に担当していたのは建物設計と建築工事管理です。建物に関する要望の取りまとめから、設計事務所やゼネコン、設備業者と調整・交渉をしつつ建物の仕様を決め、建物の完成まで担当しました。

  • 木作

    私は設備関係です。首都圏SLCに導入するマテハン(※1)機器の選定から、社内システムと自動設備の連携設計、設備導入後はその運用テストにも携わりました。

    ※1 マテハン
    マテリアルハンドリング。生産拠点や物流拠点内の原材料、仕掛品、完成品の全ての移動にかかわる取扱いのこと。
    マテハン機器はそのための設備・機器。

  • 冨山

    私がプロジェクトに本格参入したのは完工後の設備テストからです。首都圏SLCの統括という立場で、本稼働に向けてマテハン機器能力を正確に把握すること、不具合の改善を重ねて最適保管・最適稼働を追究することがミッションでした。

  • 木作

    ざっくり言うと加藤さんがプロジェクトの上流、私が中流、冨山さんが下流部分を担ったわけですが、連動する部分も多くあります。建物の設計とマテハン機器の選定は同時並行で行われますし、設備担当者として、冨山さんが主導する運用テストにも参加しました。日々コミュニケーションをとり、お互いの状況を理解、協力し合いながらプロジェクトを進行していました。

STORY/02

プロジェクトでもっとも苦労されたのは
どんなところですか。

  • 冨山

    首都圏SLCは最適物流体制の構築による低温共同配送の強化と、省人化・無人化による労働環境の改善という大きなふたつのテーマに挑んだプロジェクトです。KRSは低温倉庫のノウハウも豊富ですし、省人化・無人化倉庫についても知見を持っていますが、低温かつ無人化というのは初めてのことでした。

  • 木作

    KRSにとって初めてどころか、日本の食品物流で低温・無人化倉庫に挑んだのはおそらくこの首都圏SLCプロジェクトが初めてです。冷凍の温度帯で導入したマテハン機器のいくつかは業界では初お目見えです。

  • 冨山

    何もかもが初めての挑戦というプロジェクトでしたから、それまでに蓄積した経験知がまったく役に立たない。すべてが試行錯誤でしたから、苦労したことを挙げればキリがないですね。

  • 加藤

    建物の設計では、8,000坪を超える倉庫スペースと十分なトラックの接車スペースを確保することが大きな課題でした。敷地面積が限られていますので、両立には苦労しました。ゼネコンや設計事務所とは何度も協議を重ね、1階の床面積を小さくすることで接車スペースを確保。また通勤車両用の駐車場も立体化することで、この問題を解決しました。また上下階の搬送能力を高めるため、スパイラルコンベアやダブル垂直搬送機などを採用したのですが、これも初めての試みでしたので、非常に頭を悩まされました。

  • 木作

    設備も同じですね。低温環境での自動化を実現するために、初めて導入するマテハン機器が多く、運用までにはさまざまな調整が必要でした。機械というものは正確であっても人のように柔軟な判断まではできない。YES or NOの世界なのでいかに機械と向き合うかという点は苦労しました。たとえば冷凍倉庫では段ボールに霜がつくのは避けられませんが、機械でシールを貼ると、霜の上でも関係なく貼ってしまい正しく貼り付けられません。それを避けるにはどうすればいいのか、どのような運用を行えばスムーズな流れで正確な成果物につながるのか。運用前のテストでは営業所の皆さんと協力しながら試行錯誤を重ねました。

  • 冨山

    そうでしたね。設備テストでは想定外の事案が頻出しました。人の作業と機械による自動化作業はまったく違うので、何をどう改善すればいいのか見当もつかないというところからのスタートでした。一つひとつの作業を繰り返し確認し、問題点の洗い出しとマテハン機器の最適稼働を模索していくのですが、複数のお客様の荷物を一緒に配送する共同配送のため、こちらのお客様の荷物は大丈夫でも別のお客様の荷物では問題があるというケースもありました。こうした改善は現状も継続中です。

STORY/03

プロジェクトでもっとも工夫した点、
こだわったところを教えてください。

  • 加藤

    冷気が外に逃げないよう、また外気温の影響を受けにくくするために、外断熱工法を採用し、日照時間の長い建屋南側の断熱材の厚みを増すなどの工夫を凝らしており、これらの高い省エネルギー性能も特長のひとつです。またKRSの倉庫として初めての免震構造を採用しています。床の加重設定も通常の平米あたり1.5トンから1.8トンへと高く設定し、災害にも強い強靭なセンターを目指しました。

  • 木作

    人に優しい労働環境を実現するために、冷凍庫内での作業をなくす、フォークリフト作業を減らすことに力を入れました。

  • 冨山

    通常この規模なら、フォークリフトが60台ほど必要になりますが、首都圏SLCのフォークリフト数はわずか9台。その差約50台分の力をマテハンの力でカバーしています。

  • 木作

    冷凍庫内に現場の人間が長時間入らなくても済むように、作業用ロボットも導入しています。将来の労働人口減少を見据えた次世代型センターを実現できたと思います。

  • 冨山

    食品業界は多品種少量化が進んでおり、入庫時はパレット入庫でも出荷時は商品を各納品先単位に細かく仕分けることが求められています。その細分化された作業をロボットが担当することで、人の作業量は大きく軽減しました。

  • 加藤

    あと、個人的なこだわりとして、緑地化した屋上に白い玉砂利で「KRS」とロゴを描きました。Googleマップで見てもらうと地図にKRSの文字が浮かびます。これは誰が反対しようと譲れない設計時からの構想でした。

STORY/04

本プロジェクトが果たした意義とは
どういうものだと考えていますか。

  • 冨山

    私は現在、統括として日々の運営に携わっていますが、人に優しいセンターという目標は概ね達成できていると実感しています。労働人口の減少が続くなか、倉庫業務は人材の高齢化が進み、人手不足が深刻な問題になっています。特に低温帯での作業は過酷なもので、労働環境の改善は物流業界共通の課題でした。そこにKRSがひとつの解決策を提示したことが、本プロジェクトの大きな意義です。

  • 加藤

    実際、業界内では大きな話題となり、外部からの視察依頼も多く寄せられています。そのあたりを見越して、建屋にはレセプションルームも完備しました。倉庫内は自動化により多くの設備機器が稼働しているため、来営者をご案内できる場所が限られますが、レセプションルームでは映像や模型を使って来営者に全体像を紹介することができます。

  • 木作

    業界に先駆けて、冷凍設備での自動化・省力化を実現したことは大きな意義だと考えています。業界のリーディングカンパニーとして、KRSがフロンティアであり続けていることをしっかりと社会に示すことができたと考えています。

  • 冨山

    実際に稼働していく中で、今後もさまざまな課題が生まれると思います。それをひとつずつ解決していくことで、経験知を積み重ねていく。それが食品物流業界全体の大きな財産になっていくと信じています。

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